農機具情報局

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密苗栽培を失敗させない為のポイントを解説!

こんにちは!整備士のRedT(@RedT41921)です。

今年の冬は暖冬で全く雪が降りませんね。このままだと水不足になるのはほぼ間違いない状況になり、農家の皆さんの心配する声が良く聞かれます。

ここまで降らないのも私が整備士になってから初めての事なので今年の水稲栽培にどれだけの影響が有るのか全く想像が付かないのが正直なところです。

少しでも農家さんの負担や不安を取り除けるよう、日々勉強していたいと考えています。

そこで今回は2019年のデータを元に密苗栽培についてもう一度まとめたいと思います。

【参考記事】

www.agurimecha-redt.com

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2019年度の密苗栽培普及率

ヤンマーの調べたデータによると新潟県での密苗の作付面積は3,763ha、普及率は約3%だそうです。こうして数字で見ると、まだまだというか殆ど普及はしていないのが解りますね。全国的に見てもこの数字はほぼ変わらないのではないかと思います。

ですが、2019年の農協協会「米実態調査」によると、今後普及していく栽培技術のアンケートをとったところ、密苗が普及すると答えた人は66%(前回49%)と最も多く、次いで疎植栽培が60%だった事がわかりました。(三番目の密播も密苗と同じ栽培です)

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農業協会「米実態調査」より抜粋

現段階ではまだまだの普及率ですが、興味が有る方やこれから始めたいと思っている方は私の予想以上にいるという事が解るデータでした。

播種と苗箱枚数の考え方

ここからは失敗しない密苗栽培のポイントを紹介します。

密苗は10aあたり『苗箱10枚以下』で田植えが出来る技術です。ですが、やみくもに苗箱の枚数を減らしても失敗してしまいます。

まずは今までの慣行栽培で10aあたり何枚の苗箱を使っていたかを確認します。

【例】10aあたり15枚の苗箱を使用した場合

「乾籾播種量」140g×「慣行栽培必要枚数」15枚/10a=「基準値」2,100g/10a

という計算式となり、これが基準値となります。

この基準値を元に密苗ではどれだけ苗箱を減らせるかを計算すると

「基準値」2,100g/10a÷「密苗播種量」250g=「必要箱数」8.4枚

乾籾播種量を250gに設定した場合の必要箱数は8.4枚になることが解ります。

仮に播種量を200gに設定した場合は

2,100g/10÷200g=10.5枚

こうなると必要枚数が10枚をやや超えてしまいますが、それでも十分苗箱を削減できますね。

慣行栽培時の10aあたりの使用籾量を変えない事で密苗栽培に変更したとしても、今までとほぼ変わらない肥料の量や田植、中干し、刈取の時期にする事が可能です。

密苗の生長

密苗栽培と慣行栽培では苗の1葉期まではそれ程変わりませんが、1.5葉期になってくると大きく変わります。

まず、播種量が多ければ多いほど一本の苗が細くなります。

そして育苗期間にも差が出てきます。慣行栽培に比べ、250g播種した場合は約10%、300g播種した場合は何と約20%育苗期間が短縮されます。これはハウス/路地栽培ともに定義は同じになります。

今までのデータを元に密苗栽培の育苗期間を計算すると年毎によって気温の差があるものの育苗期間はおおよそ20日、そして生育限界は10日前後である事が解っています。

田植えに必要な苗の要件

慣行栽培よりも短い期間で育苗をするのですが、密苗栽培で田植えに必要な要件は2つあります。

まず1つ目は、田植機の苗台に乗せたときにつぶれたり崩れたりしないようなしっかりとした根張りの良い苗を作ります。

2つ目は田植え後入水しても水に潜ってしまわない様な草丈にする事です。

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ヤンマーHPより抜粋

出来れば草丈は15㎝、最低でも12㎝は無いと潜ってしまう可能性が有ります。

育苗の管理について

育苗の管理は以前まとめた記事と変わりはありません。

【参考記事】

www.agurimecha-redt.com

特に気をつけなければならないのが育苗後期のムレ苗や徒長苗の発生です。慣行苗よりも発生しやすいので育苗が完了したと思ったら短い期間で植え切るようにします。

【重要】播種時期の分散

密苗において播種時期を分散する事がとても重要です。

慣行栽培よりも短い期間で植え切らなければ苗がダメになってしまうので、きちんとした計画を立てるのが大事になってきます。

まず第一に育苗完了から生育限界が10日なので10日間の間に植付できる面積を計算します。ここでは仮に1日の植付面積を2haとし10日間で20ha田植えをすることとします。

1回目のサイクルで20ha分の播種をし、10日間ずらして2回目のサイクルを行うスケジュールを設定します。

解りやすくする為に表にしたので参考にしてみてください。

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この様な播種サイクルにすれば生育期間の短い密苗栽培も無理なくこなせるのではないでしょうか?

田植えについて

密苗栽培の移植作業についても前回まとめた記事とほぼ変わりありません。

www.agurimecha-redt.com

私の担当地区の農家さんでもいらっしゃいましたが、密苗仕様の田植機では無く慣行苗仕様での田植機で密苗の田植えをしていらっしゃる方もいました。

密苗仕様と慣行苗仕様では苗の搔取り量が違ったり苗台の横送りの回数が違うので播種量が250gや300gの密苗栽培の苗は慣行苗仕様の田植機では上手く掻取る事が出来ません。

ですので、密苗仕様の田植機ではないけど苗箱を少しでも減らしたい方は乾籾の播種量を最大でも200gにセットして播種をしてください。密苗では無く厚撒き程度ではありますが、それでも10aあたりの苗箱は12枚程度には抑えられるはずです。

実際に昨年このやり方で担当地区の農家さんに栽培を行ってもらいましたが、稲刈りの時は慣行栽培の時と変わる事のない収量もあり、更には苗箱も減らすことが出来て大変満足されていました。

除草剤や殺虫殺菌剤について

除草剤や殺虫殺菌剤は今まで通り農薬取締法に沿った使用方法をして下さい。

ですが密苗栽培で10枚/10a以下で田植えをしたい場合、どうしても殺虫殺菌剤の効果が薄まってしまうデータが出ています。その為メーカーでは田植機に箱施用剤散布機にアタッチメントを取り付け土中施用をおすすめしています。

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www.yanmar.com

これを装着すれば施肥と同じように殺虫殺菌剤も土中散布されるので確実な散布が出来ますね。更に薬剤が1㎏/10aの登録となった為、登録薬剤も拡大され圃場に合った薬剤を選びやすくなりました。

田植え後の育成について

育成については慣行栽培の時と変わりはありません。

ただ、田植え直後の見た目は全く違うので心配してしまうかもしれませんが、田植え後30日位経てばそれ程見た目は変わらなくなるので、こればかりは見慣れてもらうしか方法はありません。

疎植栽培をされている方はあまり違和感は無い見た目かもしれませんね。

まとめ

密苗栽培を失敗させない為のポイントをまとめると

★ポイント★ 
  1. 基準となる総籾量/10aを計算(播種量×苗箱枚数)
  2. 増やす播種量と使用苗箱数を計算(基準となる総籾量÷増やした播種量)
  3. 育苗期間は、慣行栽培時より10%~20%短い傾向
  4. 育苗完了から10日前後で移植作業を終わらせる
  5. 苗箱10枚/10a以下なら箱施用剤の土中施用
  6. 薄く見える田植え後の植付姿に見慣れる

 

以上の6点になります。

個人的に一番重要なの育苗完了から田植限界が短いのできちんとした播種~田植えの1サイクルを設定する事だと思います。

個人の方ももちろんですが、これから新たに密苗に取り組もうとしている法人の方々はきちんと話し合いをして綿密な計画の元、播種作業を始めることをおすすめします。

初めてやる事には失敗は付き物ですが、今回記事にした内容を参考にして頂き、是非とも新しい栽培技術に取り組んで頂ければと思います。